平成21年の厚生労働省特別研究の調査結果を受け、各自治体が従来の妊婦健診の際の血液検査項目に加えて、HTLV-1というウイルスについても検査することとなりました。平成25年8月現在でようやく37都道府県に広がり、どんどん全国的に公費負担で検査が受けられるようになってきました。上にお子さんのいらっしゃる妊婦さんだと、検査項目になかったものですので、HTLV-1についてご存知ない方もいらっしゃると思います。
今回は、このHTLV−1とはどんな病気を引き起こすウイルスで、妊婦さんやお腹の赤ちゃんにどんな影響を及ぼすのかを解説したいと思います。
HTLV-1とはどんなウイルスなの?
HTLV—1とはウイルスの名前でヒトTリンパ好性ウイルス1型が正式名称です。妊娠中の定期健診の際に行われる血液検査で、このHTLV-Ⅰの抗体があるかどうかを調べます。その結果、抗体があれば、感染していることになります。このウイルスに感染すると、成人T細胞白血病1やHTLV-Ⅰ関連骨髄症2、HTLV-1関連ぶどう膜炎3になる場合があります。
- 成人T細胞白血病とは、悪性リンパ腫の一種だが発症すると大部分が白血病化する病気です。HTLV—1に感染したTリンパ球が腫瘍化して増殖することで発症します。
- HTLV-1関連骨髄症とは、ゆっくりと進行する脊髄性の免疫疾患で両脚に麻痺を起こす病気です。
- HTLV-1関連ぶどう膜炎とは眼の中のぶどう膜(虹彩、毛様体、脈絡膜)に炎症が起きる病気です。他の細菌やウイルスでも起こる病気ですが、HTLV-1の感染が原因で起こる場合はHTLV-1関連ぶどう膜炎と呼んでいます。
HTLV-1のキャリアが多い地域があるってホント?
HTLV-1の抗体を保有している人をキャリアといいます。キャリアとは感染していても発病しない人のことです。HTLV-1のキャリアの方は、95%以上の人に自覚症状はなく生涯病気になることはありません。キャリアの方が発病する確率は4〜5%、平均発症年齢は60歳といわれています。
しかし、発症していなくても母乳、性交渉、輸血によって感染する可能性がありますからキャリアの人は十分注意が必要です。
また、実は日本国内の中でもキャリアの多い地域が存在すると言われていました。それは、九州・沖縄地域でした。しかし、近年では九州・沖縄にとどまらず、大都市を中心にキャリアの人が増加してきています。昔よりも公共交通機関や自動車などでの移動も容易になったため、地域差が小さくなってきていているのです。
母子感染対策事業でHTLVー1の検査が追加されたってホント?
ところで、平成23年度から妊婦健康診査の項目としてHTLV-1 の抗体検査が追加されました5 。つまり任意でしか抗体検査できなかったHTLV-1抗体検査が公費負担となったのです。22年度までは性感染症、エイズ、肝炎ウイルスしか妊婦健康診査の公費負担対象の感染症ではなかったのです。
HTLV-1が追加された経緯は、厚生労働省のHTLV-1についての特別研究班が「この検査は全妊婦に行うべきである」と平成22年3月に提言したためです。HTLV-1は妊婦から胎児に感染する恐れがありますが、事前に妊婦への感染がわかれば対処ができるためです。そして、その提言をうけ、全国的に公費負担で抗体検査を追加することになったのです。
妊婦さんがキャリアだったらどうなるの?
では、妊婦さんがキャリアだと赤ちゃんにも感染するのでしょうか。
これは妊婦さんが保有しているウイルスの量にもよりますから個人差があります。出産のときに感染するというよりは、主な母子感染の原因は母乳感染となりますので、もしも妊婦さん本人がキャリアであることがわかった場合は出産後、母乳は控えてミルクで対応するなどの方法がとられます7 。
とにかく、母体の抗体の有無を検査し、出産前から母子感染を防ぐ準備をしておくことが大切です。ちなみに風邪やインフルエンザなどの感染症とこのウイルスの違うところは、くしゃみや咳、唾液、お風呂などの飛沫感染や接触感染は起こらないという点です。ただし、血液を介する場合は注意が必要なのでケガをして血が出た場合や歯ブラシにつく歯茎からの血などにも注意が必要となります。